1.「工事完成基準」工事終了後に売上と経費を計上する
工事完成基準とは、長期請負契約に適応される会計方法のひとつです。工事が終了した時点での会計期に売上と経費を計上します。従来の土木・建築・建設業では一般的だった会計方法です。工事終了までに発生した費用は「未成工事支出金」として計上されます。売上は工事終了まで計上されません。工事終了の会計期まで累積された未成工事支出金を売上の差額が、事業者の利益です。
工事完成基準は会計上の確実性が高い一方で、プロジェクトの終了まで赤字が判明しないといった問題が生じることも少なくありません。クライアント側の不明瞭な依頼内容に対し、「どんぶり勘定」になりやすいという側面もあります。こうした理由から請負側にとっては常にリスクが懸念されていた方法です。
2.「工事進行基準」工事を進めながら計上も進めていく
工事進行基準のメリット
工事進行基準は、工事終了までに複数回計上を行います。一方、工事完成基準は完成後の一回のみ計上を行うため、中間に発生した修正や注文などにより生まれた赤字が最後に明るみに出ることがありました。工事進行基準は追加の注文に対してその都度請求できるため、完成後に大幅な赤字が出ることはありません。同時にクライアントの不明瞭な依頼を防げるというメリットもあります。
クライアントによる恣意的な要求を減らす効果もあるため、無駄な残業も減少します。リソース管理の最適化や、職場環境の改善といった効果も期待できるでしょう。相次ぐ要求によって発生する納期遅れを警戒するストレスも軽減されます。
工事進行基準のデメリット
工事進行基準は工事完成基準に対し客観性やシンプルさで劣っています。そのため、クライアントに対しては入念な事前説明が必要です。このことから、契約の合意に至らず、機会損失につながってしまう可能性も考えられます。
また、計上の機会が増えるため、請負側にとっては単純にそのぶんの負荷が増加します。進捗度に関しても常に把握しておかなければなりません。組織全体として、工事進行基準を受け入れる体制を整えておかなければ適応は困難でしょう。
工事進捗度の計算方法
工事進行基準の適用においては、工事収益額と工事原価総額、決算日における工事進捗度という3つの要件の信頼性を合理的に見積る必要があります。工事進捗度の合理的な見積りを算出するための計算式は次のとおりです。
工事進捗度の算定(原価比例法)
工事進捗度の基準になるのが原価で、決算日までに発生した原価を原価総額で割った値が工事進捗度となります。原価に計上するタイミングはそれぞれの企業によって異なる場合があり、購入による費用発生時や個別工事の完成など、どの時点で計上するかを決めておく必要があります。
まとめ
工事進行基準は工事完成基準と異なり、工事原価総額の見積りが大きな影響を与えますので、見積りの確実性や精度の高さが大切になります。請負工事完成前に企業活動の成果を財務諸表で公開することができる、進捗に応じた管理会計が行えるなどのメリットがあります。
しかし、そのためには工事進行基準の適用条件を満たす必要があり、建設会社として工事を完了させるに足る能力があるか、工事進行において原価管理が緻密にできるかが問われます。工事進行基準を適用できるということは、つまり、会社にそれだけの体力があることを示す指標にもなっているといえるでしょう。